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釧路家庭裁判所北見支部 昭和52年(少)238号 決定 1977年12月13日

少年 T・H(昭三五・三・一一生)

主文

非行事実なしにより、本件につき少年を不処分とする。

理由

一  本件送致事実は、つぎのとおりである。

「少年は、自動車運転の業務に従事しているものであるが、

第一  昭和五二年五月二四日午後二時三〇分ころ、常呂郡○○町×区先路上(国道××号線)において、公安委員会の運転免許には、自動二輪車は小型二輪車に限る旨の条件が付されているにもかかわらず、右条件に違反して、総排気量一二五CCを超える七五〇CCの自動二輪車(○○×××号)を運転し

第二  前記日時・場所において、前記車両を運転し、北見方面から美幌方面に向い時速約七〇キロメートルで進行中、前記車両は運転経験がなく運転未熟であつたから、このような場合自動車運転者としては、直ちに運転を中止して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、そのまま漫然と運転を継続した過失により、緩やかな右カーブに差しかかつてハンドル操作を誤り、前記車両を道路左側路外に転落させ、同車後部に同乗していたA(一八歳)に加療約二か月間を要する頭部打撲、全身打撲、意識障害等の傷害を与え

たものである。

右の第一の事実は道路交通法一一九条一項一五号、九一条に、第二の事実は刑法二一一条前段に各該当するので、少年は右道路交通法違反、業務上過失傷害の各非行につき少年法三条一項一号により審判に付されるべきである。」

二  そこで、本件非行事実の存否について判断する。

1  少年の当審判廷における供述および運転免許証等謄本によれば、少年は昭和五一年九月二一日北見方面公安委員会交付の自動二輪免許を取得しているが、右免許には自動二輪車は小型二輪に限る旨の条件が付されていることが認められる。

2  さて、証人Aの証言、少年の当審判廷における供述、司法警察員作成の実況見分調書、少年およびAに対する医師○○○○○作成の各診断書によれば、少年とA(一八歳)は、昭和五二年五月二四日午後二時三〇分ころ、常呂郡○○町×区先国道××号線路上を総排気量七五〇CCの自動二輪車(A所有名義で○○×××号)に乗車中事故を起し、車両もろとも路外に飛出し、車両は横転し、少年らは車両から路外の草むらに転落したこと、事故現場は緩やかな右カーブとなつているが、タイヤ痕等によれば、右車両は車道から路肩に出た地点から約八〇メートルほど路肩上を走り、そこから路肩外に出て、さらに約四〇メートルほど走つて停止したこと、車両の停止位置は路辺から約九・五メートルの地点であり、同所は国道××号線からは約一・五メートルほど低地となつていること、車両が路肩外に出てから走つた約四〇メートルの区間は、その間の一部に取付道路があつたりしてかなり凹凸がはげしいこと、少年らが転落し動けなくなつていた位置は、少年は進行方向に向かつて車両から約二・一メートル前方であり、Aが約六メートル左斜め後方であること、右事故により、少年は約三か月間の入院加療を要する頭部打撲、右眼鞏膜下出血、左膝部挫創、右肩関節脱臼骨折、右距骨頸部骨折、全身打撲の傷害を負い(実際は入院二か月)、Aは約二か月間の入院加療を要する頭部打撲、意識障害、全身打撲、左前腕右膝挫傷、第四腰椎圧迫骨折、左ベネット骨折、左足外果骨折の傷害(実際は約八週間の入院)を負つたことが認められる。

3  ところで、右車両を少年が運転していたかどうかについては、種々の疑問がある。なるほど、証人○○○○の証言、同人作成の昭和五二年五月二四日付捜査報告書によれば、○○巡査部長は本件事故現場の実況見分をすませて、午後三時すぎに少年らの入院先である北見市内の○○病院に赴き、車付きベットに乗せられていた少年に対し、まず怪我はどうかと聞いたところ、少年は痛い痛いとくりかえしていたこと、同巡査部長が続けて運転したのは誰かと聞いたところ、自分だとただ一言答えたこと、しかし同巡査部長は事故直後のことでもあり、それ以上のことは少年に確認していないことが認められる。また、証人○○○○の証言によれば、父親である同証人は本件事故の知らせを受けて直ちに○○病院に赴き、○○巡査部長から少年が運転していた旨を聞いて少年に確かめたところ、はつきりした言い方ではなかつたが自分が運転していた趣旨の発言をしていることが認められる。したがつて、右各事実に、前記のとおり少年らが転倒していた位置は少年が車両の前方であり、Aが車両の後方である事実と照らし考えれば、同巡査部長が事故車両の運転者はAではなくて少年であると断定したことも、あながち不当だとはいえず、その判断自体は無理からぬところがある。けだし、二人乗りの二輪車が横転した場合、通常は運転者が車両の前方に、後部座席の同乗車が後方に投出されるという捜査官としての経験則から右のように認定したという○○証人の証言も、一般的には首肯しうる点があるからである。

4  しかしながら、右経験則も、本件事故現場の起伏の状況、車道外の走行状況(とくにかなりの高速度が推認されること)等に鑑みれば、例外の余地を残さないほど一般的なものと言うことができないし、また少年の司法警察員および父親に対する自白的な前記供述も、少年が事故の翌日には父親に対し本件車両は少年が運転したものでないと供述し、以来一貫して少年は、自分が運転したと言つたことは記憶になく、自分が運転者だとはどうしても思えない旨供述していること、少年とAは親しい学友でありお互いに罪を相手にかぶせようという意識はなく、ともに真実がわからずそれを知りたがつていること(以上の各事実は、証人A、○○○○の各証言、少年の当審判廷における供述によつて認められる)等と対比して考えれば、少年の事故直後におけるわずか一言、二言程度の前記自白的な供述があつたとの一事から、少年を本件事故車両の運転者と断定することができないことは、多言を要しない。

5  そればかりか、かえつてつぎの各事実が認められる。すなわち、証人A、同○○○の各証言および少年の当審判廷における供述によれば、A、○○○、少年の三名はいずれも○○○高校三年の同級生であつて、事故当日の五月二四日の午前中まで三日間続いた一学期中間テストがあり、同日午後から試験が終つた解放感も手伝つて三人で網走方面の海岸へ遊びに行こうという話がまとまり、○○○のAの自宅から本件車両等に乗つて出発したこと、Aの家を出るときは、A所有の車両で本件事故車両である○○×××号自動二輪車総排気量七五〇CC(登録事項等通知書謄本により認められる)をAが運転し、その後部座席に少年が乗車して出発し、○○○は別の総排気量三八〇CCの車両に乗車し、A運転の右車両の後方約数十メートルを追尾して出発したこと、右三名はA宅から国道××号線を東進し、北見市街を通りぬけて網走方面に向かつたが、○○○は途中学校のクラブ活動のことを思い出し、北見市街から直線道路をしばらく走つた後、道路が左にカーブする直前で信号機が設置され左側に学校らしいものがある地点でUターンして引き返したこと、右地点は周囲の状況(とくに道路が左にカーブする手前であること)からみて○○町の神社付近(交通検問所のある付近)と思われること、○○○は右地点までは約数十メートル後方を少年ら二人乗りの本件事故車両に追尾して走つたが、その地点までは少年とAが運転を交代したことはなく、Aが運転を継続していたこと、Aは、自分が本件事故車両を運転し少年を後部座席に乗せて自宅を出発したことまでは覚えているが、その後のことは本件事故のショックから全く記憶を喪失していること、少年自身は、右○○町の神社付近まで少年がA運転の本件事故車両の後部座席に乗車し、右神社付近の交通検問所で交通取締りをする警察官がいないことがわかつて、Aが徐々にスピードをあげて一四〇キロくらいまで出して走り出したことまでは覚えているが、それ以後のことは本件事故のショックから全く記憶を喪失していること(このようなことは本件事故にあつたような場合には逆行性健忘症としてありうることである)、右の○○町神社付近(交通検問所付近)から本件事故現場までは距離にして三、四キロくらいしかなく、時間にしても二、三分後に本件事故が起こつていること、少年は本件事故時まで七五〇CCの車両は一回も運転したことはないが、Aは本件車両の所有者として三、四か月前から乗車し、すでに一、〇〇〇キロ以上の運転経験があり、これまで一二〇キロ以上のスピードを出したこともあること等の事実が認められ、右事実によれば、少年が本件事故事両を運転していて本件事故が起きたとすれば、その直前わずか三、四キロの区間でAと少年が運転を交代したということになるが、右諸事情に照せばそのように考えることはいかにも不自然である(もつともAが本件事故車両を本件事故時に運転していたと断定するにたる証拠があるといえるかどうかは別問題であつて、当裁判所もそれを断定するものではない)。

6  そのほか、本件事故の目撃者は発見できず、また本件事故車両の事故直後の指紋の採取もなく、少年の本件非行事実を認めるにたる証拠は存在しない。

7  なお、昭和五二年五月二五日付の北海道新聞、×月××日付の○○新聞、○○○○新聞には、いずれも少年の実名入りで少年が本件事故車両を時速一〇〇キロ近い猛スピードで運転したため、カーブを曲り切れず本件事故を起したらしい旨の記事が載つているが、それらのニュース・ソースは明らかではなく、右各記事から少年の本件非行事実を認定することができないことは、いうまでもない。

三  以上の次第で、少年が本件非行を犯したことを証明するにたる証拠がないので、当裁判所は、少年には本件非行がなかつたものとして、少年を処分しないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 梶村太市)

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